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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)808号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人片山秀頼の上告理由第一点について。

原審の適法に確定したところによれば、被上告人および上告人が訴外原やす所有の一三〇番の土地のうちから各一六五・二八平方メートル(五〇坪)ずつを分割して買受けるにあたつては、測量士が公図をも参照し南側隣地一三一番の土地の所有者からも同土地との境界を聞いたうえで測定した結果に基づき、売主の代理人、被上告人および上告人が立ち会つて一三〇番、一三一番両土地の間の境界を定め、そこから北へ順次間口七・二七メートル(四間)ずつの部分を上告人、被上告人がそれぞれ取得するものとし、被上告人は売主から本件係争地を含む土地の引渡しを受けて占有を開始したのであり、一三一番の土地との真の境界は右に定めた境界よりも道路に面する部分において約〇・九一メートル(三尺)北にあつて、本件係争地は上告人の買い受けた土地に含まれるべきものであつたが、被上告人が当時事前に公図を見たとしても、真の境界を知りえたかどうかはきわめて疑わしいというべきである。このような事情のもとにおいては、被上告人が当時みずから公図を見、あるいは所論の区画整理組合の図面について調査しなかつたとしても、本件係争地を自己の所有に属するものと信ずるにつき過失があつたものと認めることはできず、被上告人が占有の開始につき無過失であつたとする原審の認定判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

被上告人が一〇年間所有の意思をもつて本件係争地の占有を継続したものと認めた原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らして、肯認することができないものではない。そして、記録に照らしても、上告人が時効中断事由にあたる承認の事実を原審において主張した形跡はなく、審理の経緯に徴し、右事実を主張するかどうかにつき原審が釈明権を行使しなかつたことをもつて違法とすべき事情もなんら認められない。原審の認定判断の過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三)

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